冷めた目で見られることはわかってる

周りは敵だらけで怯えているけど、言葉にしてないとたやすく潰れてしまいそう

何も楽しくない話

 

外野からの言葉が痛くてネットから逃げた

 

長い長い一週間だった

 

 

 木曜日の夜、急に怖くなり結局0時を過ぎるまで3人の歌う姿を受け止めるのを躊躇っていた。

この日を迎えるまでたくさんの意見が飛び交っていたのをみた。応援するため見る者、心の整理がつかず見ないと公言する者。みるもみないも自由だ。私には見届ける権利があった。

 

 一曲目、イントロが流れただけで胸が苦しくなった。本来ならばコンサートで初めて披露するはずだった曲だと悟った。デビュー曲をサンプリングしたオケにメンバーが各自作詞してメロディーをのせた曲。

 

 どうか自分の思い違いでデビュー曲であれと願った。

 

 会場の中央、一人で立つ彼の姿をみて確信した。心臓がかつてない速さで脈打つのを感じた。

 

 ファンは知っていた。歌詞もメロディーもバラバラで、メンバー一人一人がソロで歌い継いでくこの曲は、最後、ここにいない彼へバトンが渡されることを。

 一番手に歌い出した彼の声をきいた途端、涙で前がみえなくなった。私の大好きな声なのに、大好きなかっこいい姿なのに、ちゃんと見ることができなかった。ダムの決壊は止まらない。

 

 彼のパートが終わる。次へ、そのまた次へバトンが繋がる。

 4人目のパートはどうなるんだ。誰が、どう歌うんだ。はたまた3人で。

 

 

 そこには誰の歌声もなかった。

 歌詞のテロップすらもない。流れる音楽を背に歩く3人の姿だけが映っていた。

 

あの日 僕ら偶然出会い

まぶしい 毎日が始まり

ひとり 僕じゃ全然できない事ばかりだったけど

 

 

希望をくれた君へ

心を込めて

感謝のYell

 

 

 何も知らない人からしたらそこはただの間奏だった。でも、ファンには確かに聴こえた。ここにいないのに。

 このまま最後まで続くのかと思った。

 けれど、ステージの真ん中に集まった3人は声を合わせた

 

ずっと同じ景色見てきたね

君がいるから幸せ

幾千の悲しみや別れ乗り越えて

永遠に君に幸あれ

 

 

 

 呆然としている間に一曲、また一曲と感想を言う隙も無く彼らの曲は続いた。

 MCはない。少しでも歌を届けようとしてくれていた。

 いつもコンサートではMCが盛り上がりすぎて怒られてるくせに。

 選曲はどれも彼ららしすぎた。私の知っている、大好きな彼らがそこにいた。

 そして、最後に何を歌うのかも私は知っていた。

 彼らと過ごした時間が教えてくれた、確信があった。

 

 「あなたはひとりじゃない」

 冒頭そう叫んだ彼の声で目がさめた。泣いている場合ではない。

 

 いつだって彼らは全力で歌う。泥臭くても、もうだめだと言われても、生歌を届けてくれる。

 

 

あの日つまづいて

しゃがみこんでしまうほどの痛みさえ

 

 

 

 また、一人分の声だけがなかった。

 

 マイクを通さず歌う二人の間に立つ彼は、口を閉じたまま笑いもしていなかった。

 苦しい。

 相方と呼ばれる彼は、代わりに歌ってやるなんて絶対しないのだと訴えてるようだった。

 

あぁどうか力を貸してくれないか

昨日までの僕よ 共に乗り越えてきたじゃないか

僕は誓うよ 一切引かないし一切負けない

生まれた日から今日までの僕が見てる

明日もそう

少しづつ前へ not alone

 

 

 私は歌った。彼らはいつも一緒に歌ってくれと言っていた。この歌はファンも歌う事で初めて完成する。

 今までで一番下手くそな歌声だっただろう。

 でも、ここまで感情を吐き出して歌えたのは初めてだった。

 きっと、いや絶対、歌っているのは私だけじゃなかった。そう思うと心強かった。

 歌い終わった彼らは会場を見ていた。そして、私も会場にいた。

 音が消える。最後まで彼らはあまりにも彼ららしかった。

 どうか、3人の彼らを見るのはこれが最初で最後であって欲しい。

 

 雨の音がうるさかったけれど、泣き声を隠してくれているようで安心した。

 

 

 

 

 次の日、目覚めるといやに冷静な自分がいた。

 どうやったって日常はやってくるし、偶像にとらわれてる暇もなかった

 夜遅くまで手が離せず帰るのも遅かった。今思えば、忙しい一日でよかった。

 友人から『帰ったら彼らからのメール確認してね』とだけメッセージがスマホのロック画面に出ていたのを見た。

 

 この時、何があったのかはだいたい想像がついた。

 

 家についた頃には彼のラジオが始まる時間になっていた。大好きな、何年たっても変わらないマイペースな彼の声を聴く時間が幸せだった。いつものように何も知らず聴きたかったからメールを確認するのは後回しにした。ラジオ越しの声はいつもと変わらずマイペースだった。ずっとこの4合わせな時間が続けばいいと願った。

 

 「ファンの皆さまへ大切なお知らせ」

 何が起こったのかわからなかった。覚悟していたはずなのに。

 3人の声は震えていた。

 どうして、そんなに他人行儀な言葉なの。

 何年見てきてると思ってんだ。本当の、心からの言葉を教えて。

 胸が張り裂けるとはこういうことを言うのか。

 明日が休みでよかった。

 

 いつの間にか0時を過ぎて明日になっていた。

 アーティストメッセージの動画はごっそり消え、ブログも彼の色だけがなかった。

 まるで最初からいなかったようだった。

 さよならを言わせてもくれなかった。

 ファンに会うことをあんなにも楽しみにしていた彼の痕跡は跡形もなかった。

 最後に更新してくれたブログの内容を覚えていない自分をひどく恨んだ。

 

 「みんなに会いたい。他のメンバーは何してるんだろう」

 

 唯一覚えていた彼の言葉がなんどもなんども頭の中をぐるぐるしている。

 ツアーが始まる前も、中止のお知らせをする時も、彼はファンのことを想って喜んだり悲しんだりしていた。こんな中途半端な終わり方をするとは思えない。彼に何があったのか知りたい。けどこわい。

 いっそ、救いようのない悪者なら諦めがつくのに。彼の優しさも強さも本当は泣き虫なところも私は知ってしまっている。4人で再出発する直前、髪を真っ白にした彼の決意表明を捻じ曲げられたくない。無数の尖った刃が彼1人に向けられていることに耐えられない。早く、彼の何者も介さない声が聞きたい。会いたい。この声が枯れるくらいに好きと伝えたい。

 心も体も疲れているはずなのに眠くならなかった。

 

もっと傍にいてほしい

あぁ 夜よ明けないで

きらめいて流れる空の下でこんなに願って

いっそ時を止めてくれ もうどうにでもなれ

染められて優しい風に吹かれてこんなに震えているよ

 

 眠気が迎えにきてくれるまで彼の歌声を聴き続けた。

 

 

6/20.21、彼らは東京ドームに立つはずだった

勇気を右のポケットに、希望を強く握りしめ会場へと集まる仲間たちもいた。

そう簡単に行ける距離ではなかったが、想いだけでもと仲間に託した。

 

夜、大好きな5人の姿を観ても全く心に響かなかった。

今の私の心を動かせるのは彼らの声だけだった。

それでも他のことに意識を向けていないとすぐに壊れてしまいそうだった。

そのために聴いていたラジオから流れた曲。

心臓の音がうるさかった。二番に入って歌声が聞こえた瞬間、決壊した。

止まらなかった。

 

あと数日もすればこの曲は世に放たれてしまう。怖くてたまらない。

泣いてたことなんか忘れられるくらい笑える日が来る?

明日の今頃は陽気な歌を歌えてるとも思えない。

でも、悲しみにけりをつけなきゃいけない。

またいつ決壊してしまうかわからなくてこわい。

気づけばラジオは終わっていた。

 

 

 

何かある度に彼は「かわいそう」だと言われた。仲間に恵まれないね、と。

たやすく言うな。

彼はかわいそうなんかじゃなくて宇宙一かっこいい。

相方に出会ってなかったら、グループでいなかったら、今の僕はいないと何度も言っていた。

だから、例えばこの声が届くなら誰でもいいから、彼を勝手にかわいそうだなんて決めつけないで。

4人になってよかったねと言う人もいた。

心無い言葉に「9の時も6の時も減ってよかったなんて思ったことないよ」とさらりと返す彼はとてもかっこよかった。

 

 

ただ、4人の彼らをを見ている時間があまりにも幸せすぎた。

 

想像もつかないような荒野を彼らは進むのか。その先の光景が、きっと美しいと信じて。

9年前とは違う。彼らは歩みを止めてない。私は怖くて足がすくんで動けないままなのに。

 

朝が来ることがこわい。